留学記 (A01 菊地班 福島広大 さん)
本領域では、「潜在空間分子設計」に関連する国際共同研究の促進と若手研究者の育成を目的に、大学院生の海外研究室への派遣を支援しています。今回、この制度を活用してフランスのリヨン高等師範学校へ留学した大阪大学の福島広大さんに、留学体験記を寄稿していただきました。
留学記
大阪大学大学院工学研究科 博士後期課程1年
菊地研究室 福島 広大
概要
今回、本学術変革領域研究(A)のご支援をいただき、フランスのリヨン高等師範学校へ約2か月間の研究留学をさせていただきました。留学先ではHasserodt先生(Prof. Jens Hasserodt)の研究室に所属し、蛍光プローブの合成に取り組みました。この期間を通して、プローブの合成手法だけでなく、蛍光プローブが学術分野や社会でどのように役立てられているかについても学びました。本留学を通じて、ケミカルバイオロジー分野の研究に関する理解を一層深めることができ、自身の研究への意欲をさらに高める機会となりました。

留学への経緯
菊地先生とHasserodt 先生は以前より交流があり、これまでにも菊地研究室の先輩方がリヨン高等師範学校に留学するなど、両研究室は深いつながりを築いてきました。そうしたご縁もあり、今回私も留学の機会をいただきました。Hasserodt研究室は菊地研究室と同様にケミカルバイオロジー分野の研究を行っており、生命現象を可視化するための蛍光プローブやMRIプローブの開発を行っています。私は現在、菊地研究室でMRIプローブの開発に関する研究に取り組んでおり、異なるアプローチを用いるHasserodt研究室のMRI関連研究に強い関心を持っていました。また、普段携わる機会が少ない蛍光プローブの開発に挑戦することで、ケミカルバイオロジー領域における知識や実験技術をさらに広げたいと考えていました。さらに、フランスを含むヨーロッパへ行くことは自分にとって初めての経験であり、国際的な研究環境に身を置くことで新たな視点を得られると期待していました。
留学日程と準備
留学期間は、博士後期課程1年の9/1から10/31の2か月間でした。フランスでは新学期が9月から始まるため、その時期に合わせて留学を開始しました。
今回の留学では、宿泊先や航空券の予約、リヨン高等師範学校との各種手続きを自分で行いました。Hasserodt先生とは3月頃から連絡を取り始め、早めに宿泊先を確保した方がよいとの助言をいただいたため、寮や民泊仲介サイトを早い時期から確認していました。リヨン高等師範学校との事務手続きでは、書類を送信した後、しばらく返信がなく不安に感じることもありましたが、7月中に無事に入学許可証を受け取ることができました。研究面の準備としては、Hasserodt研究室で行われている蛍光プローブやMRIプローブに関する論文を事前に読み、基本的な知識を整理してから留学に臨みました。
リヨン高等師範学校
リヨン高等師範学校(ENS-Lyon: École Normale Supérieure de Lyon)は1880年に創立された、リヨンに位置するグランズコールと呼ばれる高等教育機関の1つです。Hasserodt先生の研究室は、MonodキャンパスLaboratoire de Chimieに位置するM6棟に所属しています。M6棟は、化学系の研究室が集まる研究棟であり、理論化学、超分子化学、ケミカルバイオロジー、機能性・フォトニクス材料など、複数分野の研究室が所属しています。私は研究を進める際、主にHasserodt研究室の学生とやり取りをしていましたが、デスクワークを行うオフィスや実験室は他研究室の学生とも共有していました。そのため、異なる研究分野の学生と日常的に交流する機会が多く、研究分野を越えてつながりを作るいい機会になりました。


研究生活
フランスでは9月が新学期の開始時期であり、現地に到着してすぐに研究活動を始めることができました。実験に入る前にはオンラインおよび実技の安全講習を受講し、リヨン高等師範学校における安全ルールを確認しました。基本的なルールは菊地研究室と共通する点が多かったですが、実験可能な時間が7:30~19:30と限定されていること、また研究室メンバーが不在の状態で実験をしてはいけないという決まりがありました。実験時間が限られていた分、効率よく合成を進めるため、実験スケジュールをより綿密に立てることを心がけました。
今回の研究では、酵素反応に応答して発光する赤色蛍光プローブの開発に取り組みました。前任者が開発したプローブには、酵素反応前の性質に課題があったため、私は新たな酵素反応部位を導入することで、その性質の改善を目指しました。今回のプローブ合成は比較的ステップ数が多く、研究を始めた当初は2か月間でどこまで進められるか不安もありました。しかし、文献や前任者の実験ノートを読み込み、研究室の学生とも積極的にディスカッションを行いながら着実に合成を進めた結果、2か月で合計15ステップの反応を完了し、プローブ合成に重要な酵素反応部位と赤色蛍光分子の縮合反応まで到達することができました。言語や設備、実験ルールが異なる環境下で、未経験の研究テーマに対して主体的に実験計画を立て、英語でコミュニケーションを取りながら研究を進めることができた経験は、今後の自身の研究活動において大きな糧となると感じています。
研究室生活では、ランチタイムになるとM6棟の学生やポスドクが集まり、天気の良い日には建物の外にあるベンチで会話を楽しみながら一緒に昼食をとることが日常でした。その中で、研究の話だけでなく、日常生活についても気軽に話すことができ、徐々に打ち解けていったと感じています。このような日々の交流を通じて学生同士の関係が自然と深まり、研究活動においても互いに良い刺激を与え合えたと感じています。
研究設備
Hasserodt研究室では、菊地研究室と同様に各学生にドラフトが割り当てられており、合成はそこで行っていました。合成に必要な試薬やNMRなどの装置は、研究棟全体で共有されていました。試薬は試薬庫内で管理されており、各試薬に番号が付けられていたため、オンライン上で検索することで目的の試薬をすぐに見つけることができ、とても便利でした。また、NMRなどの装置もオンライン上で予約することができ、スケジュールを組んで使用することができたため、効率的に実験を進めることができました。



セミナー
Hasserodt研究室では、毎週水曜日にラボミーティングが開かれ、各メンバーが実験の進捗を報告していました。また、毎週金曜日にはM6棟に所属する研究室合同のミーティングが開催され、各回で1~2人が自身の研究内容や文献紹介について10~15分の発表を行い、その後に質疑応答がありました。私もこの合同ミーティングでMRIプローブの開発について発表する機会をいただき、英語で口頭発表を行いました。このミーティングには、有機合成だけでなく、ナノ粒子研究に詳しい先生方も参加されており、質疑応答の場では今後の研究を進めるうえで重要なアドバイスを多くいただくことができました。このような機会を積極的に活用し、自身の研究に対するフィードバックを得られたことは、今回の留学で得た成果の1つであったと感じています。

現地での生活
今回の留学ではシェアハウスに滞在し、大学へはバスと地下鉄で30~40分ほどで通学していました。地下鉄は約3分間隔で運行しており、どの時間帯で駅に着いてもすぐに乗車できるため、非常に便利でした。シェアハウスにはキッチンなどの設備が整っていたため、鍋で米を炊くなど、日常的に自炊をして過ごしていました。フランスの気候は日本よりも涼しく、日本を出発した時はまだ残暑が続いていましたが、リヨンは長袖が必要になるほど快適な気温でした。10月に入るとさらに気温が下がり、平均して15℃前後の日が多かったです。
リヨンには、世界遺産に登録されている旧市街や、ノートルダム大聖堂をはじめとする歴史的建造物が多くあります。また、美術館や博物館も充実しており、週末にバスや電車を利用してそれらの観光地を巡りました。ヨーロッパならではの美しい建築や芸術作品に触れることができ、とても良い経験になりました。また、10月中旬には、リヨン市内の公園でハロウィンに向けたかぼちゃ祭りが開催されていました。飾りつけ用のかぼちゃの販売だけでなく、かぼちゃを使ったアートやアクティビティも行われ、多くの親子連れでにぎわっていました。このような現地ならではの文化に触れることができたことも貴重な経験になりました。



また、リヨンはフランス国内の都市や近隣国へのアクセスが非常に良く、週末を利用して様々な街を訪れることができました。移動にはTGVや長距離バスを利用し、滞在中にパリ、アヌシー、アヴィニョン、カンヌ、ニース、スイスのジュネーブを観光しました。アヌシーはスイスの近くに位置する小さな町で、美しい山々に囲まれたアヌシー湖が特徴的でした。町は全体的に落ち着いた雰囲気があり、美しい自然の風景が心に残っています。アヴィニョンは14世紀の教皇宮殿を中心に城壁が取り囲む歴史的都市で、当時の文化と建築を見学し、楽しむことができました。このように、週末の観光を通して美しい風景や新しい文化に触れることは良いリフレッシュとなり、平日の研究活動とうまくメリハリをつけることができたと感じています。


留学を通して学んだこと
今回の留学では、菊地研究室で取り組んでいるMRIプローブ関連の研究とは異なり、これまでほとんど経験のなかった蛍光プローブの開発に挑戦しました。研究を始めた当初は2か月間でどこまで進めることができるか、大きな不安がありました。しかし、文献を丁寧に調べながら計画的に実験を進めた結果、合計15ステップの反応を進めることができました。この経験を通じて、有機合成によって新たな分子を創出することに自信がつき、帰国後は自身の研究テーマに関連する新たな分子を設計・合成し、より独創的な研究に発展させたいという思いが一層強くなりました。
また、リヨン高等師範学校では同世代の博士課程の学生と交流する機会が多くありました。日本では同じ研究室内の学部生や、修士課程の学生と関わることが多く、博士課程の仲間が少ないと感じていました。しかし、海外では自分と同じ立場で研究に励む学生が想像以上に多くいることを知り、自分もその一員として一層努力したいという気持ちが強まりました。今回の留学で海外の同世代の研究者とともに研究活動に取り組んだ経験は大きな刺激となり、今後の研究生活を支える大きな励みになったと感じています。


謝辞
改めまして、留学を受け入れてくださったHasserodt先生、さらには留学を企画してくださった、本研究領域プロジェクトの領域代表である菊地和也先生および支援職員の方々に深く感謝申し上げます。
最後に本留学について全面的な支援を賜りました学術変革領域研究(A)潜在空間分子設計に厚くお礼申し上げます。

