天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く
生物活性分子デザイン
領域略称名:潜在空間分子設計
領域番号:23A204
設定期間:令和5(2023)年度~令和9(2027)年度
領域代表者:菊地 和也
所属機関:大阪大学大学院工学研究科

①領域の概要

 天然物(第1)と合成化合物ライブラリー(第2)という2つの化合物リソースを活用した生物活性分子の発見・同定は、化学と生物学の融合分野であるケミカルバイオロジー研究推進の駆動力となってきた。本領域では、これらに続く第3のリソースを提案する。この第3のリソースは、天然物の生物活性データを基に深層学習技術によって構築される化合物潜在空間(Latent Chemical Space)からバーチャルに創成され、強固な有機合成技術で実空間に具現化されるものである。天然物と情報学研究との融合により生まれる化合物潜在空間は、データ駆動型ケミカルバイオロジー研究というパラダイムシフトを起こし、生物活性分子設計に変革をもたらす。この実現に向け、ケミカルバイオロジー、情報科学、有機合成の3班構成による「サイバー生物活性分子デザインラボ」を始動する。この第3のリソースから創出される化合物を起点とし、新しい生命機能解明や医薬・農薬シーズに結び付く画期的分子を高効率に開発できる生物活性分子デザイン法の新学理構築を目指す。

②公募する内容、公募研究への期待等

 本領域が掲げる、ケミカルバイオロジー研究・情報学研究・有機合成化学研究の融合による生物活性分子デザイン法の新学理の創出、という目標に対し、研究視点・研究バックグラウンドに深みと広がりを加え、目標達成に向けた研究体制強化を目的として、公募班員を募集する。学術変革を目指すには、目的意識を同じくする広範な研究課題の募集と研究成功例の蓄積こそ必要である。研究分野の今後の発展の礎を築くために、研究目標のベクトルを同じくする活発な女性・若手研究者の積極的な応募を期待する。公募研究内容のポイントを以下に研究項目ごとに記す。

 研究項目A01(ケミカルバイオロジー班)では、評価法のバリエーションを増やすことが必要であり、独自の視点の活性評価法を力強く推進できる研究者を公募する。質の高い化合物潜在空間を構築するためには、より包括的な活性評価が望ましい。このために、活性評価法に優れる生体関連化学や構造生物学的基盤を与える構造生物学などを専門とする班員採択を想定している。さらに、独自の評価法を用いて第1のリソースをアップデートしている天然物化学を専門とする研究者の応募を期待している。

 研究項目B01(情報解析班)では、本領域の計画班員が独自に開発した深層学習手法に基づいて構築する化合物潜在空間を、情報科学の知見からさらに拡充できる研究者を公募する。具体的には、バーチャルスクリーニングやケモインフォマティクスに潜在空間を応用する研究や、新規機械学習手法の開発、言語基盤モデル(自然言語に限らない)の学習や応用などの研究課題を広く募集する。また、本領域では化合物の様々なラベル付きデータを収集してグラフデータ構造で整理していくため、グラフ表現の深層学習やデータマイニング、データ表現を専門とする研究者も歓迎する。これまでに化学や生物学分野に携わった経験が無くても、情報科学や人工知能分野で優れたアルゴリズムや手法を開発し応用する研究者の応募を期待している。

 研究項目C01(有機合成班)では、(1)化合物潜在空間から導出される新規生物活性候補分子の合成、(2)生物活性分子を基盤とする新規合成化合物ライブラリーの構築・拡充、の2点を並行して進める。情報解析により提案される新規分子の構造多様性に対応するには、本領域が有する合成技術の高度化と多様化が重要となる。そこで、複雑分子の合成に有用な独自の技術と高い合成力を有し、かつそのさらなる高度化を通じて上記実施項目(1), (2)に取り組み、化合物潜在空間の深化に積極的に貢献できる研究者の応募を期待している。

③公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数

研究項目番号 研究項目名応募上限額(単年度当たり)採択目安件数
A01ケミカルバイオロジー班:構造多様な化合物資源による
生物活性データ収集
300 万円7 件
B01情報解析班:情報科学・人工知能技術を応用した
化合物潜在空間の構築と応用
7 件
C01有機合成班:生物活性評価に資する
合成化合物ライブラリーの構築
7 件