ユニークな新規合成化合物ライブラリー創出とデザイン分子合成

大森 建

研究代表者
所属:東京工業大学理学院 教授

研究概要

有機合成を基盤として構築された様々な化合物空間(実在化合物空間)は、有用分子の発見・開発に欠くことのできない知的財産であるが、近年発展が著しい情報技術との連携を進めることができれば、その重要性は一層増すと期待される。一方で、解析の前提となる実在化合物空間に限りがあることが、独創的な分子の発見の妨げになっている。

複雑な立体構造を有し、かつ多様な官能基を備える有機化合物としては二次代謝産物を中心とする天然有機化合物が挙げられる。これらは生体分子との特異な相互作用が期待できるため、医薬などへの応用が期待される一方で、構造の一般性や規則性に乏しいことから合成が難しく、網羅的な化合物供給が困難である。これに対し、タンパク質や糖鎖あるいは核酸も多様な構造を形成するが、これらは比較的単純な構造単位(アミノ酸、グリコシド、ヌクレオシド)の繰り返しからなるオリゴマーであるため、系統的な検討が容易である。実際にそれらの構造をモチーフとして、様々な有用分子が見出されている。しかし、それでも現存の実在化合物空間の領域は、今後の技術進歩の可能性を鑑みると十分とは言い難い。

本計画研究では、多様な生物活性を示す天然物をモチーフとして、これまでにないユニークな合成化合物のライブラリーを構築し、新たな生物活性の発掘に寄与する。具体的には、多様な構造と各種の重要な生物活性が見出されているフラボノイド系ポリフェノール、ポリケチド芳香族、テルペノイドおよびアルカロイドを中心とした多官能性分子群に焦点を充てる。本計画研究では、さらに化合物潜在空間にて創出された新規デザイン分子の構造を精査し、実空間に投影可能な化合物の選定および逆合成解析・合成を行う。

研究成果

  1. Betkekar, V. V.; Suzuki, K.; Ohmori, K.; Angew. Chem. Int. Ed. 2022, 61, e202205106.
  2. Azami, K.; Hayashi, T.; Kusumi, T.; Ohmori, K.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 5321–5326.
  3. Ninomiya, M.; Ando, Y.; Kudo, F.; Ohmori, K.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 4264–4270.
  4. Sakai, T.; Suzuki, K.; Ohmori, K.; Synlett 2018, 29, 1351–1357.
  5. Yamada, T.; Takiguchi, H.; Ohmori, K.; Suzuki, K. Org. Lett. 2018, 20, 3579–3582.
  6. Nakamura, K.; Ohmori, K.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 182–187.

研究分担者

  • 塚野 千尋 京都大学大学院農学研究科